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インドネシアの労働法と労働組合

2014年4月25日 金曜日

◎労働者保護の色合いが強い労働法と活発な労働組合活動

外資系企業がインドネシアへの進出を検討する際に、決まって挙げられる課題がある。それは労働者保護の色彩の強い労働法とデモ・ストライキを頻発させる労働組合の存在である。これが原因で、多くの外資系企業が人件費負担増のリスクにさらされることになる。

 インドネシアデモ写真

インドネシアにおける労働組合によるデモの様子

インドネシアの労働法は、具体的には次のような特徴を持っている。

  • 短期で完了する業務は契約社員を雇用することで対応することを許可しているが、2年間以上継続する業務は正社員を雇用して対応することを義務付けている。
  • 企業サイドの事情で簡単に正社員を解雇することを禁じている。(裁判で刑事罰が確定したようなケースや、会社が2期続けて赤字のようなケースで初めて正社員の解雇が認められる。)

企業は一度正社員を雇用すると、その労働者が定年(55歳)に至るまで雇用し続ける義務を負うことになる。従ってできるだけ雇用期間を限定することが出来る契約社員を雇いたがる傾向が強いが、労働組合はこの契約社員を正社員に切り替えさせるための要求を企業に強く求めてくる。また組合は賃上げも強く要求している。この活動により、インドネシアの最低賃金水準は近年急激に上昇している。(下表を参照)

 

ジャカルタ 最低賃金推移

最低賃金
(単位:インドネシアルピア)

上昇率(%)

インフレ率(全国)(%)

2009

1,069,865

10.00%

2.80%

2010

1,118,009

4.50%

7.00%

2011

1,290,000

15.38%

3.79%

2012

1,529,150

18.54%

4.30%

2013

2,200,000

43.87%

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出典:インドネシア労働移住省

 

◎労働法および労働組合活動の今後の動向

外資系企業にとっては、この労働者保護の色彩の強い労働法と強い労働組合の存在は悩みの種であるはずであり、私もお客様より今後の動向を聞かれることが多い。私は、労働法は今後とも当分は不変であるものの、労働組合活動は和らいでいく傾向にあると思っている。

労働法が不変である理由は、昨今のインドネシアの国内政治情勢にその根拠がある。先日実施されたインドネシアの総選挙において、メガワティ元大統領率いる闘争民主党の得票率が19%で首位であったが、現行労働法はこの闘争民主党が政権を担っていた2003年に制定されたものである。この労働法を何とか改正しようと試みた現職大統領のユドヨノ氏が率いる民主党は今回の総選挙で得票率10%に留まり、政権与党に就く可能性はなくなってしまった。これにより、少なくとも次期大統領の任期である5年間は労働法が改正される可能性は極めて低いと考えられる。

また、労働組合の活動が和らぐ根拠であるが、ここにも政治が絡んでいる。インドネシアの労働組合の活動資金は政党から提供されていると言われている。選挙前は票の獲得に向けて派手なストライキを労働組合に演じさせて、その要求を政府が飲む形で最低賃金を上昇させる。つまり、労働組合活動は選挙の終了と共に、一旦落ち着くと考えられるのである。

それから、インドネシアの最低賃金の水準が既に他国と比較してもそれほど遜色の無い水準にまで上がってきているという事実も、労働組合の活動が和らぐ根拠の一つとして数えられる。(下図を参照)

 

 アジア主要都市最低賃金

 

先日インドネシアに訪問し、労働制度を司る労働力・移住省の官僚にインタビューを実施する機会を得た。

その官僚は、次のようなことを話していた。「インドネシアでは労働力人口に比して、雇用を提供する企業の数がまだ少ない。にもかかわらず労組の企業に対する要求が強すぎると、外資系企業がインドネシアから撤退してしまう恐れがある。これは雇用の減少につながるため労働者自身を苦しめることになる。この点がインドネシアの労働市場の最大の問題点である。」

政府は選挙対策として最低賃金を上昇させたが、それがインドネシア経済にとって必ずしもプラスにはならないということを理解している。このことから推測すると、今回の総選挙後は最低賃金の上昇は一旦ストップする可能性が高いのではないか。もしそうであれば、インドネシアに進出した(もしくはこれからしようとしている)企業にとっては好材料となるはずである。

ミャンマー訪問記

2013年8月28日 水曜日

今月、ミャンマーに訪問する機会を得た。ミャンマーといえば、アジア最後のフロンティアと呼ばれ、日本企業が進出先として注目する新興国のうちの一つである。一体どのような国なのか?訪問前の私はとてもワクワクしていた。せっかくなので出来るだけ現地の生活水準、インフラ整備状況等を把握し、実際のところ日本企業が進出可能な状態の国なのかをこの目で確かめたいと思った。

 

◎インフラ整備状況

タイのバンコクより夜間のフライトでミャンマー最大の都市であるヤンゴンを目指した。着陸間近になった時、私は飛行機の窓からヤンゴンの市内を覗いて見た。そこでまず一つの驚きがあった。街の明かりが少ないのである。バンコクの夜景も先進国のそれと比較するとやや暗いように感じたが、ミャンマーの場合、最も発達しているはずのヤンゴンでさえポツポツとしか明かりが見えない。その国の経済発展度合は、細かい経済指標など見なくても、大都市の夜景を見ればあらかた分かってしまうものなのかもしれないなと感じた。実際にヤンゴン降り立ってみて、夜の繁華街を歩いてみると・・・

繁華街の夜

こんな感じで、街頭があまりついていない。よくミャンマーは電力不足で、民生用に回す電力が限られると言われるが、それを身をもって実感した瞬間だった。ちなみに昼間は・・・

繁華街の昼

こんな感じである。中古の日本車が数多く走っており大通りは渋滞が発生することも珍しくない。一方で建物は大半が植民地時代(ミャンマーは1948年にイギリスより独立)のものだと聞いていたが、随分年季の入ったものばかりである。(下の写真は、ミャンマー人の住む住宅の外観)

住居

現地に十数年滞在している日本人に会う機会があり、現在何社程度の日本企業が駐在員を派遣しているのか聞いてみたところ、約100社程度だという。駐在員は通常各社とも1名のみで派遣されることが普通らしく、このような環境の中で家族と離れて生活をしていく駐在員の精神的負担は相当なものだと思われる。事実、この環境で生きていくことに嫌気がさしてしまい会社を辞めて行方不明になってしまった日本企業の駐在員も実際にいたらしい。

 

◎工業団地への日本企業の進出状況

さて、私は複数の日本企業が工場を運営しているミンガラドン工業団地に向かった。ミンガラドン工業団地とは、同国で初めての国際水準の工業団地として三井物産とミャンマー建設省住宅局とが共同で開発した工業団地である。ホームページを見ると、全ての区画が「販売済み」か「予約済み」となっている。(同工業団地のホームページ:http://mingaladon.com/japanese/land_use_plan_lease_terms.htm)しかしながら、実際に団地の中に入ってみると、はっきり言って空地だらけである。区画を購入もしくは購入予約をした多くの企業は、実際にはまだ工場の建設に着手していないのである。場所だけ確保しておいて、工場進出はもう少し様子を見てからということなのであろうか?

 

◎タイ企業の存在

ミャンマーの一人当たりGDPは、約800米ドルである。一般に、この値が3,000米ドルを超えると、家電や自動車等の耐久消費財の消費量が本格化すると言われている。経済成長のペースが今のまま推移すると仮定すると、一人当たりGDPが3,000米ドルに到達するには、あと20年から30年はかかる計算である。当然のことながら、現時点では日本の家電など高すぎて普及するはずもない。と思っていたら、ホテルに備え付けてあったポットのメーカーに見覚えのある名前が・・・

ポット

「MATSUSHITA」?なんとパナソニックのポットかと思いきや、タイの「MISUSHITA」というメーカーのポットであった。頑張っている日本企業の姿を一瞬見た気がしたのだが、残念ながらそれは錯覚であった。

ミャンマーへ進出している外資企業で最も目立つのはタイ企業、その次が中国企業ではないだろうか。実際スーパーの店頭で食料品等のパッケージを見ていても、タイ語の表記が目立つ。残念ながら日本のブランドを見かけることは少ない。

 

◎日本企業にとっての選択肢

日本人が住み慣れた祖国を離れ、一定期間駐在し、事業を立ち上げる先としては、ミャンマーはまだ、インフラや住環境の整備が不十分であると私は感じた。一方で、中進国であるタイの企業は、地の利を生かしてどんどん進出を進めている。このままではタイやその他の国の企業に負けてしまう可能性が高い。ひとつの選択肢として、タイ企業との協業による進出という方法が考えられるだろう。実際にそのような検討を行っている日系企業も存在する。どのような方法をとるにせよ、近い将来、もう一度ミャンマーを訪れたとき、日本の企業の存在感が大きくアップしていることを期待する限りである。